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ペルソナを作ったら、次に取り組みたいのが「カスタマージャーニーマップ」です。せっかく顧客像を描いても、その人がいつ・何に悩み・何を学び、どう意思決定していくのかという時間軸の理解がなければ、適切なタイミングで適切な情報を届けることはできません。
ただし、ここで一つ発想を転換する必要があります。カスタマージャーニーマップは、「顧客をどう売り場へ誘導するか」を描くものではありません。インターネット以降のBtoBでは、顧客にどう学び、成長してもらうかを考えるための地図なのです。この記事では、その視点に立ったBtoB向けカスタマージャーニーマップの作り方を、マップの型(テンプレート)と記入例つきで、5つのステップに沿って解説します。
購買プロセスは「顧客主導」となった
なぜ「学習と成長」の視点が必要なのか。その背景には、インターネット以降に起きた、購買行動の根本的な変化があります。
主導権は売り手から買い手へ移った
かつて、BtoBの製品情報は営業担当者が握っていました。買い手は、営業から話を聞かなければ詳細を知ることができなかった。しかしインターネットの普及によって、状況は一変しました。いまや買い手は、企業のWebサイト、比較記事、口コミ、SNSなどから、自分のペースで好きなだけ情報を集められます。
その結果、購買の主導権は売り手から買い手へと移りました。これを裏付ける有名な調査があります。
- BtoBの買い手は、営業担当者と話す気になる時点で、すでに購買意思決定プロセスの**約57%**を終えている(CEB)
- BtoBの買い手の**77%**は、自分で独自にリサーチを済ませるまで営業担当者と話さない(DemandGen Report)
- **36%**は、発注先候補のショートリストを作り終えるまで、営業と接触しない(DemandGen Report)
つまり、買い手は営業に会うずっと前に、自分で学び、比較し、候補を絞り込んでいるのです。
ペルソナは「自己学習型」である
このように、自ら情報を集めて学習し、意思決定を進めていく現代の買い手は、「自己学習型バイヤー(Self-Educated B2B Buyer)」と呼ばれます。彼らは、デジタルに精通し、人脈やネットワークでつながり、豊富な知識を持ち、質の高い対応を求めます。
ここから、企業の役割が見えてきます。買い手が自ら学ぶ時代に、企業が「売り込む」ことの効果は薄れます。代わりに企業にできるのは、ペルソナの役に立つコンテンツを提供し、ペルソナ自身が学習し、賢く意思決定できるよう手助けすることです。買い手の業界が抱える課題を整理し、注意すべき落とし穴を示し、ときには本人がまだ気づいていない課題にまで光を当てる。こうして学習を支援する存在になることが、選ばれる企業への道筋になります。
カスタマージャーニーマップは「顧客の成長の地図」になる
この前提に立つと、カスタマージャーニーマップの意味が変わってきます。
従来のように「顧客を購入へ誘導する経路図」として捉えるのではなく、ペルソナ(自己学習型バイヤー)が、各段階で何を学び、どう課題理解を深め、成長して意思決定に至るのか——その学習と成長のプロセスを描く地図として捉えるのです。そして各段階で「自社はどんなコンテンツを提供すれば、その学習を助けられるか」を考える。これが、現代のBtoBにおけるカスタマージャーニーマップの本質です。
カスタマージャーニーマップとは
あらためて整理すると、カスタマージャーニーとは顧客が自社を認知してから契約・導入に至るまでの道のりを指し、それを一枚に可視化したものがカスタマージャーニーマップです。本記事の立場では、これを「顧客の学習・成長の道のり」として描きます。
BtoBのジャーニーがBtoCと違う点
- 企業と担当者、2層のペルソナが必要:BtoCは個人一人ですが、BtoBは「どんな企業の・どんな担当者か」の両面を描きます。
- 意思決定者が複数いる:担当者だけでなく、上長や決裁者など複数の関係者が学習し、合意する必要があります。その分、購買プロセスは長期にわたります。
- 比較検討が前提:自己学習型バイヤーは、ほぼ必ず複数のサービスを自分で調べ、比較します。競合と比較される前提で道のりを描く必要があります。
マップを作る4つのメリット
第一に、顧客の学習プロセスと心理が可視化され、中長期的に学習を支援する設計ができます。第二に、顧客像が一枚の図として共有され、社内の共通認識ができます。第三に、どの学習段階でつまずいているかが見えるため、コンテンツ施策の優先順位をつけやすくなります。第四に、外部パートナーとの連携もスムーズになります。
カスタマージャーニーマップのテンプレート(基本の型)
BtoBのカスタマージャーニーマップは、横軸に検討フェーズ、縦軸に整理する項目を置いた表で作るのが基本です。次のような型を用意します。
| 項目\フェーズ | 認知 | 情報収集(学習) | 比較・検討 | 導入・決定 |
|---|---|---|---|---|
| 行動 | (何をするか) | |||
| 思考・感情 | (何を考えるか) | |||
| 課題・知りたいこと | (何に困り、何を学びたいか) | |||
| 顧客接点 | (どこで出会うか) | |||
| 企業の目的 | (組織として何を達成したいか) | |||
| 提供する学習コンテンツ | (学習を助ける手) |
ポイントは、縦軸に「課題・知りたいこと」と「提供する学習コンテンツ」を据えることです。顧客が各段階で何を学びたいのかを捉え、それに応える情報を用意する——この構造が、自己学習型バイヤーを支える設計の核になります。
カスタマージャーニーマップの作り方|5つのステップ
ステップ1:目的とゴールを決める
最初に、「何のためにマップを作るのか」を決めます。目的が曖昧なまま作り始めると、誰にも使われないマップになりがちです。「情報収集段階で学習を支えきれず取りこぼしている人を減らす」「社内で顧客の学習プロセスへの理解をそろえる」など、具体的に設定します。あわせて、達成の基準をできるだけ数値で定義します。
ステップ2:企業・担当者のペルソナを設定する
ジャーニーは「誰の」学習の旅なのかが定まって初めて描けます。企業と担当者のペルソナを設定します(作り方は関連記事「BtoB向けペルソナの作り方」を参照)。
BtoBでは、担当者個人の欲求ではなく、**組織としての目的(課題解決)**を軸に据えるのがBtoCとの違いです。この組織の課題こそが、ペルソナが「学びたいこと」の源泉になります。
ステップ3:認知から契約までの行動を洗い出す(横軸を埋める)
設定したペルソナが、認知から契約までにどう動き、どう学んでいくかを書き出します。どんなきっかけで課題に気づき、どこで情報を集めて学び、何を基準に比較し、どう決裁を通すのか——フェーズごとに並べます。
ここで重要なのが、マーケティング担当者だけでなく営業担当者の視点を入れることです。マーケは認知〜学習段階の動きに、営業は比較〜決裁の実態に詳しい。両者を合わせることで、偏りのないマップになります。
ステップ4:思考・課題・接点を書き込む(縦軸を深める)
行動の流れができたら、各フェーズでペルソナが何を考え、何を知りたいと感じ、何に不安を抱くかを書き込みます。自己学習型バイヤーは「学びたいこと」を抱えて各段階を進むので、その学習ニーズを丁寧に捉えることが、提供すべきコンテンツの特定につながります。
あわせて、その学習ニーズに応えられる接点を整理します。BtoBの代表的な接点には、次のようなものがあります。
- オウンドメディア(ブログ)/Web広告
- ホワイトペーパー/お役立ち資料
- ウェビナー/セミナー
- プレスリリース/SNS
- メルマガ/カスタマーサポート
「学びたいことはあるのに、それに応えるコンテンツがない」フェーズが見つかれば、そこが施策の打ちどころです。
ステップ5:学習を助けるコンテンツを検討し実行する
最後に、各フェーズの学習ニーズに応えるコンテンツを、マップの最下段に書き込みます。ここで意識したいのが、参考になる「価値提供の問い」です。理想の顧客の立場に立って、次を考えてみてください。
- この業界で、顧客が最も不満に感じていることは何か
- 親しい人がこの種のサービスを買うとしたら、何に注意するよう伝えるか
- 業界はどう改善されうるか。自社はそれをどう解決できるか
これらに答えるコンテンツは、単なる製品紹介を超えて、顧客の学習を本当に助けます。そのうえで「機能(どう解決するか)→ベネフィット(顧客にとって何を意味するか)→事例(どんなストーリーで伝えるか)」の順で具体化すると、説得力が増します。
施策を並べたらKPIを設定し、実行後に想定通り進んでいなければマップを見直します。リソース配分には、ハイタッチ(1対1の個別対応)・ロータッチ(セミナー等の1対多)・テックタッチ(MA等ツールによる1対多)の使い分けが役立ちます。
記入例:SFA(営業支援ツール)を検討する営業課長の学習の旅
イメージを持ちやすいよう、記入例を示します。ペルソナは「案件管理に悩む製造業の営業課長」です。
| 項目\フェーズ | 認知 | 情報収集(学習) | 比較・検討 | 導入・決定 |
|---|---|---|---|---|
| 行動 | 非効率を感じ検索 | 解決策の種類を学ぶ | 複数製品を比較・資料請求 | 社内稟議・決裁 |
| 思考・感情 | 「何とかしたい」 | 「どんな手段がある?」 | 「自社に合うのは?」 | 「上司をどう説得?」 |
| 課題・知りたいこと | 原因が言語化できない | 解決策の全体像を知りたい | 各製品の違いを知りたい | 費用対効果を示したい |
| 顧客接点 | 検索・ブログ記事 | お役立ち記事・資料DL | 比較記事・事例・価格 | 営業・見積もり・デモ |
| 企業の目的 | 営業生産性の向上 | 同上 | 失注率の改善 | 投資対効果の確保 |
| 提供する学習コンテンツ | 課題を整理する解説記事 | 解決策の全体像がわかる資料 | 導入事例・比較表 | ROI試算・個別相談 |
認知段階で「課題そのものを整理する解説記事」を置いているのがポイントです。まだ自分の課題をうまく言葉にできていない段階のペルソナに、気づきを与えて学習を始めてもらう。これが自己学習型バイヤーの成長を支える起点になります。一枚で見渡せると、どの学習段階でコンテンツが足りないかが一目でわかります。
作成時の注意点
顧客の「知りたいこと」を起点にする:自社が売りたいものではなく、顧客企業が各段階で何を学びたいかを起点にします。営業へのヒアリングやデータ分析で、実態に基づいて捉えます。
比較検討がある前提で作る:自己学習型バイヤーは必ず自分で比較します。競合の訴求も踏まえ、比較段階の学習を助けるコンテンツ(公正な比較情報など)を設計します。
企業全体で取り組む:マーケだけで作らず、営業・カスタマーサクセスなど複数部門で連携します。各部門が関わることで、顧客の学習プロセスを多面的に捉えられます。
定期的に振り返り、見直す:市場や顧客、事業フェーズは変化します。顧客が学びたいことも変わります。施策の効果が出ないときや事業の節目では、KPIとあわせてマップ自体を見直します。
まとめ:カスタマージャーニーマップは「顧客の成長を設計する」シナリオ
インターネット以降、BtoBの購買は顧客主導に変わりました。ペルソナは、自ら学んで意思決定する自己学習型バイヤーです。だからこそ企業の役割は、売り込むことではなく、ペルソナの役に立つコンテンツを通じて、その学習と成長を支えることにあります。
カスタマージャーニーマップは、その「顧客の成長」を設計するための道具です。企業と担当者の2層のペルソナを起点に、各段階で顧客が何を学びたいかを捉え、それに応えるコンテンツを一枚に整理する。作り方は、目的設定→ペルソナ設定→行動の洗い出し→思考・課題・接点の書き込み→学習コンテンツの検討、という5ステップです。
完成したマップの最下段(提供する学習コンテンツ)は、そのままコンテンツ制作の設計図になります。どの学習段階に、どんなコンテンツが必要かが見えたら、次は各コンテンツの種類と使い分けを検討する段階です。ピラー記事「BtoBのカスタマージャーニー設計とコンテンツの作り方」では、顧客の学習を支えるコンテンツ設計の全体像を解説しています。あわせてご覧ください。
※本文中の調査データ出典:CEB(Corporate Executive Board)/DemandGen Report。Self-Educated B2B Buyerの概念および価値提供の問いは、Encore Business Solutions のブログ記事を参考にしています。